行列の作用素ノルムと最大列和/行和
行列の1ノルム、supノルムがそれぞれ行列の最大列和、行和を与えることを示します。
定義
行列A∈Rn×mに対する行列の作用素ノルム∥A∥pは、次のように定義されます。
∥A∥p:=x∈Rm,x=0sup∥x∥p∥Ax∥p
右辺の∥⋅∥pは、ベクトルに対するpノルムです。
目標
行列の1ノルム、supノルムに対して、次が成り立ちます。このページでは、これらを示します。
∥A∥1=1≤j≤mmaxi=1∑n∣aij∣,∥A∥∞=1≤i≤mmaxj=1∑n∣aij∣
1. 1ノルムが最大列和であること
∥A∥1≥1≤j≤mmaxi=1∑n∣aij∣
と
∥A∥1≤1≤j≤mmaxi=1∑n∣aij∣
に分けて示します。
1.1. 1ノルムは最大列和以上であること
k:=1≤j≤margmaxi=1∑n∣aij∣とします。
つまり、kは、Aの各列のうち、その列の各成分の絶対値の和が最大である列の列番号です。
このようなkに対し、第k成分のみが1で、他の成分が0であるベクトルekは、
行列の作用素ノルムの定義から、
∥A∥1=x∈Rm,x=0sup∥x∥1∥Ax∥1≥∥ek∥1∥Aek∥1
を満たします。右辺はAの第k列の成分の絶対値の和に等しいので、
∥A∥1≥1≤j≤nmaxi=1∑n∣aij∣
が示されました。
1.2. 1ノルムは最大列和以下であること
ベクトルの1ノルムの定義から、ゼロベクトルでない任意のx∈Rmに対して、
∥Ax∥1=i=1∑n(Ax)i=i=1∑nj=1∑maijxj
が成り立ちます。ここで、(Ax)iは、ベクトルAxの第i成分です。
さらに、jで和をとる部分に三角不等式を適用すると、
∥Ax∥1≤i=1∑nj=1∑m∣aij∣∣xj∣=j=1∑m(∣xj∣i=1∑n∣aij∣)
と評価できます。任意のjに対してi=1∑n∣aij∣≤1≤j≤mmaxi=1∑n∣aij∣
であり、右辺はjによらない値なので、
∥Ax∥1≤j=1∑m(∣xj∣1≤j≤mmaxi=1∑n∣aij∣)=(j=1∑m∣xj∣)1≤j≤mmaxi=1∑n∣aij∣
とできます。したがって、ベクトルの1ノルムの定義から、∥Ax∥1≤∥x∥11≤j≤mmaxi=1∑n∣aij∣
が得られます。ゼロベクトルでない任意のxに対してこの不等式が成立するので、
∥A∥1=x∈Rm,x=0sup∥x∥1∥Ax∥1≤1≤j≤nmaxi=1∑n∣aij∣
が示されました。
2. supノルムが最大行和であること
前節と同様に、
∥A∥∞≥1≤i≤nmaxj=1∑m∣aij∣
と
∥A∥∞≤1≤i≤nmaxj=1∑m∣aij∣
に分けて示します。
2.1 supノルムが最大行和以上であること
ℓ=1≤i≤nargmaxj=1∑m∣aij∣とします。
つまり、ℓは、Aの各行のうち、その行の各成分の絶対値の和が最大である行の行番号です。
このようなℓを用いて、ベクトルξ∈Rmの各成分を次のように定めます。
ξj={1−1(aℓj≥0)(aℓj<0)
このξの決め方によって、
∥Aξ∥∞=1≤i≤nmaxj=1∑m∣aij∣
が成り立ち、行列の作用素ノルムの定義から得られる、
∥A∥∞=x∈Rm,x=0sup∥x∥∞∥Ax∥∞≥∥ξ∥∞∥Aξ∥∞
とあわせて、
∥A∥∞≥1≤i≤nmaxj=1∑m∣aij∣
が示されました。
2.2 supノルムが最大行和以下であること
ベクトルのsupノルムの定義から、ゼロベクトルでない任意のx∈Rmに対して、
∥Ax∥∞=1≤i≤nmax(Ax)i=1≤i≤nmaxj=1∑maijxj
が成り立ちます。三角不等式を用いると、
∥Ax∥∞≤1≤i≤nmaxj=1∑m∣aij∣∣xj∣
と評価できます。さらに、任意のjに対して∣xj∣≤∥x∥∞であり、右辺はjによらないので、
∥Ax∥∞≤∥x∥∞1≤i≤nmaxj=1∑m∣aij∣
とできます。ゼロベクトルでない任意のxに対してこの不等式が成立するので、
∥A∥∞=x∈Rm,x=0sup∥x∥∞∥Ax∥∞≤1≤i≤nmaxj=1∑m∣aij∣
が示されました。